■ 平成22年度の研究進捗状況
包括的保存システムは5つのサブシステムから構成される。博物館内での活動(臨床保存活動)に対して適切な支援を行うシステム(臨床支援システム)の中身がサブシステムである。それらについての詳細は過去に発表した内容を参照いただきたい。各サブシステム構築の進行状況は以下のとおりである。
1) データ管理サブシステムの構築について(H20、H21、H22)
これまで直接的に関連付けて管理されることのなかった、文化財の属性情報、文化財の保存環境情報、文化財の保存状態情報を結びつけるため、「文化財収蔵場所環境情報システム」を開発した(H20-22)。これによって過去10年間に蓄えられた多様なフォーマットの情報を一元管理するための心臓部分が構築されたことになる。博物館内で今後生成される新たな情報は本システムによる管理が可能となった。
2) センサーサブシステムの構築について(H20、H22)
まず、文化財の保存環境を維持するために行われた作業の内容を、時間、位置情報とともに管理するための「位置情報・作業内容管理システム」を開発した(H20)。次に、環境情報を把握するセンサーを高密度・高精度化するために「センサーネットワークによる展示環境モニタリングシステム」を開発した(H22)。後者システムで設置したセンサーは前者システムで管理され、このサブシステムで整理されたデータは以下に述べる分析サブシステム等を経由して、データ管理サブシステムへフィードバックされることで、文化財の劣化原因となる環境因子の効果的な抑制を実現する。
3) 分析サブシステムの構築について(H20、H21、H22)
文化財の劣化症状を分類するために症例カタログを作成し、センサーサブシステムによって記録されたデータと劣化症状との因果関係を正確に把握するための基本情報を整理した(H20-22)。その上で、博物館内各地点における環境レベルを自動的に診断、評価する機能を文化財収蔵場所環境情報システムに加えた(H20-22)。導き出された評価はデータ管理サブシステムによって管理される。
4) 意思決定サブシステムの構築について(H22)
文化財に関連するこれらの情報が上記3つのサブシステムの整理、選別を経由することで、文化財に生じる劣化・損傷の形態、劣化・損傷が発生するのに要する時間、劣化・損傷を引き起こす環境の限界条件(CTQ:Critical to Quality)が導き出される。その結果、文化財の劣化をある程度予測することが可能となり、事前にリスクを回避するための措置を講じることができる。その判断を適切なものへ導くための意思決定サブシステムの根幹となる上記CTQの指針は、空気汚染物質濃度、温湿度環境のクラス分類など、H22年度までに作成し、その後サブシステムの試行を実施している。
5) 最適化管理サブシステムの構築について(H23、H24)
平成23年度から着手する予定である。具体的には意志決定サブシステムを本格稼働させ、環境改善策を実行しながら(H23-24)、改善策の実施状況を管理、評価する最適化管理サブシステムを構築する。