■ 平成23年度の研究進捗状況
平成20年度から、包括的保存システムを構成する各サブシステムの構築と運用の試行実験を進めてきた。平成24年度には本システムの構築が完了する予定で進行している。
1) データ管理サブシステムとして「文化財収蔵場所環境情報管理システムの開発(H20-22) 」が完成、「既存データベース・プロトDBとの連携(H22) 」の強化により、文化財の属性情報と文化財の環境・状態を示す情報とを関連づけて状況把握ができる環境の実現が具体化し、文化財の安全性を確保するために多角的な分析が同一画面で可能になった。
2) センサーサブシステムとして「位置情報・作業内容管理システムの開発(H20) 」、「センサーネットワークによる展示環境モニタリングシステムの開発(H22) 」、「保存カルテのデジタル化(H22) 」、文化財・器具などの移動情報、遠隔地から取得した温湿度情報、文化財の状態を示すカルテ情報をデータとして新たに加えることが可能になり、文化財に係る環境情報をより高密度に取得できるようになった。現在、文化財の位置情報管理について運用の面で改善を図り、データの収集の効率化を目指しているところである。また、デジタルX線透過撮影装置の高精細化により、文化財の状態診断の精度が向上し、またデータの管理・取扱いが平易になり利用が進んでいる。これらのデータがデータ管理サブシステムである「文化財収蔵場所環境情報管理システム」で運用される。
3) 分析サブシステムとして「ディフェクト(Defect)の定義とCritical To Quality(CTQ)のための症例カタログの作成(H20-22) 」、「展示環境レベルの自動診断、評価機能の開発(H20-22)」、空気汚染物質に関する新たな濃度指針の完成により、多角的なデータを統一的な判断基準で評価する準備が整った。また、生物生息状況、光放射レベル、輸送環境、修理材料などに関して現状の指針を再検討して、分析サブシステム上での判断基準として利用できるように進めているところである。
4) 意思決定サブシステムとして、文化財の劣化要因に対する許容量ないしは範囲(CTQ)について、相対湿度レベル、空気汚染物質濃度、振動・衝撃レベルについて評価を行った。評価によって具体的な改善策を策定し、保存環境の最適化を図る意思決定サブシステムを試行した。現在試行中のものとして、館内温湿度環境の改善に向けた取り組みである。特に展示室内における相対湿度変動を抑制するために、同一場所における過去のデータを用いた改善策の検討、改善策の施工前後におけるデータの比較検討を行い、それの繰り返しによって目的を実現するプロセスを、現実の問題を通じて試行中である。
5)最適化管理サブシステムは、意思決定サブシステムによって決定された方策が具体的に実施に移された以降の状況に関してセンサーサブシステムを通じて監視し、その状況を改善する役割を担う。つまり、両者は交互に働き掛け、スパイラルな軌跡を形成しながら目的へと向かう。その推進役を担う部分であり、装置と組織が一体となったシステムである。
最終段階に向けて 現段階で、臨床データを取得・処理するためのハードウエア部分の仕組み作りはほぼ完成したと言ってよい。さらに、これらのサブシステムの実際的な運用をすでに開始しており、各サブシステムあるいはサブシステムに含まれる個別的なシステムの動作確認を臨床活動の中で実施している。今後はこれらのサブシステムを具体的に運用しながら、センサーサブシステムから最適化管理サブシステムまで一貫した動作を確認し、システム全体の構築を完成する予定である。