論文等

《新収品紹介》青花蓮池文大皿 景徳鎮窯

著者: 今井 敦(東京国立博物館)

出版者: 東京国立博物館

掲載誌,書籍: MUSEUM 第597号

2005年 8月 15日 公開

関連研究員(当館): 今井 敦 

データ更新日2021-12-16

元時代の青花磁器の存在が注目されるようになったのは、今から50年ほど前のことである。米国のJ・A・Pope氏が、Zhizheng 11年(1351)の年紀が記された青花龍文象耳瓶(英国・Percival David Foundation蔵)を基準作として、Turkey・IstanbulのTopkapu SarayiとIranのArdebil Shrineの収蔵品の中から、元時代に位置付けられる一群を抽出し、14世紀の青花磁器の特色を明らかにしたのである。当館収蔵の所蔵の元の青花磁器は3点の壺があったが、平成14年(2002)にこの青花蓮池文大皿が加わった。
この大皿はPopeが提唱した14世紀の青花磁器の特徴を具備した標準的な作例である。青花の発色は濃く鮮やかであり、筆遣いは雄渾で、濃密な文様構成がとられている。類品は比較的多く、蓮池文は元の青花磁器の主要なモティーフの一つということができる。この蓮池文のほか、蓮池水禽文、魚藻文、草虫蔬果文など、元時代の青花磁器に好んで取り上げられたモティーフと、江南地方の職業画工が手掛けた画題との間には共通点が多いことが指摘されている。しかし、青花磁器に描かれた蓮池文の表現は、工芸品の装飾文様であり形式化、装飾化されていることを割り引いても、絹本の蓮池図と比較すると、かなり稚拙であるといわなければならない。元の青花磁器に描かれた蓮池文の特色は、あたかも児童の絵のようなプリミティヴな視覚にある。
力強い筆致で描かれた文様は、はみ出さんばかりの勢いがあり、円形の画面に無理やり嵌め込まれたかのようである。外周に描かれた唐草文などとの調和も、あまり考慮されていない。蓮池の図は本来発展や繁栄、とくに子々孫々の繁栄の象徴として取り上げられたと考えられるが、吉祥の寓意は背後に押し遣られ、そのためかえって不可思議な、幻想的な印象すら与える。この旺盛な表現意欲を剥き出しにした作風こそが、元の青花磁器を特色づけているのである。