論文等

飛青磁花瓶

著者: 今井 敦(東京国立博物館)

出版者: 國華社

掲載誌,書籍: 國華 第1333号

2006年 11月 20日 公開

関連研究員(当館): 今井 敦 

データ更新日2020-10-08

 鉄分を含んだ顔料で斑文を散らした青磁を、日本では飛青磁と呼びならわしている。元時代に龍泉窯で焼かれ、日本の茶人に珍重された。鉄斑文は意図的に不定形に表現されており、その配置は一見不規則にみえるが、どの角度からみても均衡が崩れないように絶妙の計算が働いている。黒の中にほのかに褐色が浮かぶ鉄斑文は、青磁の釉色をいっそう魅力的なものにしている。
 鉄斑文による青磁の装飾は古越磁の段階から行われているが、宋時代に入るといったんすたれてしまう。釉色の美を追求する宋磁においては、鉄斑文が生み出す強いコントラストは異質なものとして排除されていったのであろう。そして鉄斑文が散らされた青磁は元時代に復興される。高度な技巧をこらしながら、作為を感じさせない作風は、むしろ宋磁の延長上にある。これ以上の作為によって調和が破られれば、すべてが無に帰する緊張の上に成り立っている。飛青磁は宋磁の、さらには中国の青磁の歴史の最後の到達点なのである。