論文等

试论元青花的成立

著者: 今井 敦(東京国立博物館)

出版者: 上海博物馆

掲載誌,書籍: 2012・上海元代青花瓷器国际学术研讨会论文稿

2012年 10月 19日 公開

関連研究員(当館): 今井 敦 

データ更新日2022-05-06

 青花磁器は元時代に江西省の景徳鎮窯において完成された。青花のはじまりに関しては、主に技術的な観点からすでにさまざまに論じられており、青花に先行するさまざまな釉下彩の存在が明らかにされている。青磁が成熟の段階に到達してほどなく三国時代にはみごとな青磁鉄絵が焼造されており、唐時代には長沙窯で鉄絵が焼かれていた。白磁にコバルト顔料で藍色の文様をあらわした「青花」が唐時代に作られている。しかしこれらはのちに景徳鎮窯で開花する青花に直接結びつくものではない。磁州窯では金時代より鉄絵による文様がさかんになるが、この場合も白地黒掻落しとよばれる非常に手の込んだ技法の一時的な盛行を経てからのことである。このように見てくると、釉下彩の盛行を阻害していた要因は、技術的な制約とは別の点に求めるべきではないかと思われる。したがって、青花誕生の意義を明らかにするためには、元時代の青花が打ち出した新機軸を分析することが有効であると考えられる。つまり、青花の技法がのちの時代に継承されていった理由・要因に元青花の本質が隠されているのではないか。
 元青花の文様とそれ以前の釉下彩との間に一線を画する新機軸はどこにあるのか。結論からいえば、それは動きの要素、時間の経過の表現を陶磁器の文様に取り込んだ点にある。たとえば青花蓮池魚藻文壺(大阪市立東洋陶磁美術館蔵)では魚、水草、蓮葉、蓮花などはいずれも誇張された力強い曲線で構成されており、各モチーフの形態が重なり合い結びついて、アニメーションのような動きが生み出されている。口縁部に描かれた元時代独特の波濤文は、画面をあたかも回り灯籠のように展開させる働きをしている。また、政略のため北方の異民族である匈奴の呼韓邪單于に嫁ぐ王昭君の故事を描いた青花明妃出塞図壺(出光美術館蔵)では、王昭君を先導し意気揚々と引き揚げる呼韓邪單于が乗る馬の脚の形が上方から伸びる松の枝と相呼応しているのに対し、王昭君の頭上の柳の枝は対照的にまっすぐ垂れており、北方の異郷へと向かう王昭君一行の足取りの重さがたくみに表現されている。口縁部にあらわされた波濤文は見る者の視線を左へと誘い、この先に待ち受ける悲劇を予感させる。このような動きをもった表現、絵巻のように場面が展開してゆく表現こそ筆彩の独擅場であり、絵付けによる装飾を認知させる新たな魅力をそなえた文様表現だったのではないか。