日中に分蔵される敦煌出土「百衲経巾」について
学会,機関: 第5回シルクロード仏教文化研究会
発表者: 廣谷 妃夏(東京国立博物館)
2026年 3月 28日 発表
関連研究者(当館): 廣谷 妃夏 
データ更新日2026-03-30
東京国立博物館(以下、東博)が所蔵する、大谷探検隊将来品とみられる染織資料群には、中国旅順博物館(以下、旅順博)所蔵敦煌出土絹織物縫い合わせ裂(「百衲経巾」)と類似する染織品断片が存在する。本発表では、旅順博物館の協力のもと2025年に行なった実見調査に基づき、日中で分蔵される「百衲経巾」について報告する。「百衲」とは、一般に裂を縫い合わせて大きな面とした染織品を指し、敦煌文書中にみられる同名の供養具の名称より、この種の縫い合わせ裂に当てはめられた名称である。本作例の比較例となる大英博物館所蔵品については、先行研究において袈裟や褥の用途が検討されてきた。いっぽう「経巾」の語について、形状の記述からみて、経机の敷布とする説が提示されている。発表者は旅順博および東博蔵品に関しても、袈裟や床用の褥ではなく、経机ほか儀礼用の机の上敷(几褥)として用いられたものとみなす。さらに東博所蔵断片が旅順博所蔵「百衲経巾」の脱落片であることを確かめ、旅順博蔵「百衲経巾」における左右対称の裂の配置傾向、脱落部分の形状、使用裂、縫合の特徴より、東博断片の原位置の可能性を提示する。旅順博蔵「百衲経巾」は使用裂からみて7~8世紀の錦綾が用いられているが、接ぎ合わせた年代はさらに下る可能性がある。また、縫合痕からみて複数人による製作の可能性を指摘し、吐蕃~曹氏帰義軍期敦煌の在地信者の活動との関係についても今後の検討の余地があることを示す。