論文等

《作品紹介》赤楽茶碗 銘鵺 道入作
Red Raku Tea Bowl, Known as "Nue", by Donyu

著者: 今井 敦(文化庁美術学芸課)

出版者: 東京国立博物館

掲載誌,書籍: MUSEUM 第655号

2015年 4月 15日 公開

関連研究員(当館): 今井 敦 

データ更新日2021-12-16

 樂家は千利休(1522~91)の創意を受けて楽茶碗を創始した長次郎(?~1589)を初代とし、道入(1599~1656)は樂家第三代にあたる。道入は法名で、存命中は吉兵衛と称し、またノンコウの俗称で知られる。長次郎、常慶までの茶碗を古楽といい、釉調に艶がなく、重厚な作行きであるのに対し、道入の代になると作風が一変する。さまざまな釉技や、軽快な篦使いにより、新たな時代に応じた明るく軽やかな個性を茶碗の上に発揮した。長次郎と並んで、以後の樂歴代の基本的な技法は道入によって確立されたと言っても過言ではない。道入がこのような革新性を強く打ち出した背景には、作陶を個性表現に昇華させた本阿弥光悦(1558~1637)との親交があったと考えられる。
 鵺の銘をもつこの赤楽茶碗は、蛤端と呼ばれる薄く削り込まれた口縁、広い見込み、力強く正円形に削り出された口縁、器形に変化を加える巧みな箆使い、白土に黄土を塗って鮮やかな赤色を得る技法、砂釉と呼ばれるざらめきを加えた釉薬、印の「樂」字の上部の白の筆画が一本多く自となっているいわゆる自樂印など、道入の赤楽茶碗の特徴をすべて具えており、ノンコウ七種の一つにも数えられる道入の代表作である。
 鵺は、手捏ね成形、内窯焼成という基本的な技術を継承しながら、そこに見られる明るく軽やかな装飾性は、重厚で内省的な長次郎の茶碗と対照的ですらある。茶陶に装飾性が取り込まれてゆく寛永文化における京都のやきものの代表作の一つに位置づけることができる。