論文等

白地黒掻落牡丹文瓶

著者: 今井 敦(東京国立博物館)

出版者: 國華社

掲載誌,書籍: 國華 第1381号

2010年 11月 20日 公開

関連研究員(当館): 今井 敦 

データ更新日2021-12-15

 磁州窯の名は華北地方一帯で民衆の日用の器を焼いた民窯の総称として用いられている。磁州窯の陶器を特徴づけるのは、鉄分を含む灰色の胎土に、水に溶いた白土を厚く掛ける白化粧の技法である。彫りで文様をあらわすと灰色の素地が露出し文様が白と灰色の対比であらわされるため、多彩な文様表現が発達した。白化粧の上にさらに鉄絵具を塗り、鉄絵具だけを削り落として文様をあらわすのが白地黒掻落しである。彫りによる文様表現としては最も手の込んだ技法であり、北宋時代末の一時期に流行した。この瓶は白地黒掻落しの技法による磁州窯の代表作とされる。
凛とした気分をそなえた文様は、形やバランスを整えることを意に介さず、一気呵成に彫りあらわされている。図案化された文様でありながら、生き生きとした躍動感と生命感に満ちているのはそのためであろう。洒脱でありながら豪放磊落な作風は、宋磁の一翼を担う磁州窯の魅力をよく物語っている。