口頭発表

明末清初の民窯磁器の意匠にみられる「文人趣味」

学会,機関: 美術史学会東支部2001年7月例会

発表者: 今井 敦(東京国立博物館)

2001年 7月 28日 発表

関連研究員(当館): 今井 敦 

データ更新日2021-12-10

明末清初期に景徳鎮の民窯で生産された古染付や天啓赤絵、南京赤絵は、わが国に数多くもたらされており、日本以外に伝世している例が知られていないことから、日本向けの輸出品という側面が強調されてきた。また、その作風は日本人の好み、とくに茶の美意識と関連づけて論じられることが多かった。
ただし、これらの磁器に日本人の好みが反映されているにせよ、受容の背景として、江戸時代の日本における中国趣味の問題を考えなければならない。意匠のうえに、明確に日本趣味を指摘しうる例は、多くはないのである。また、これらの磁器がもっぱら日本市場向けの製品であったのか、それとも中国国内向けの製品の一部が日本にもたらされていたのかという問題についても、十分に検討されているとはいえない。
古染付や天啓赤絵、南京赤絵には、山水人物などの図に詩文を添えた一群がある。詩文の内容に目を向けると、著名な詩から戯れ歌の類までかなりのばらつきがあり、日本の茶人向けといった、一律の需要に応えた製品とは考えにくい。これらの民窯磁器には、中国国内における需要が想定され、その背景として、明末清初期の中国における大衆化・通俗化した文人趣味の存在が予想される。