論文等

三の丸尚蔵館所蔵の中国陶磁について
Chinese Ceramics Held by the Museum of the Imperial Collections

著者: 今井 敦(東京国立博物館)

出版者: 宮内庁

掲載誌,書籍: 三の丸尚蔵館年報・紀要第27号

2022年 3月 25日 公開

関連研究員(当館): 今井 敦 

データ更新日2022-03-28

 宮内庁三の丸尚蔵館は50余件の中国陶磁を収蔵している。収蔵品の多くは、国内外の要人から皇室に献上されたもので、清国関係者からの献上品、満州国関係者からの献上品、中華民国(台湾)関係者からの献上品、中華人民共和国関係者からの献上品、日本人からの献上品があり、このほか法隆寺献納宝物、京都御所に伝来した作品などがある。収蔵の時期は1891年から1938年頃に集中している。1891年に献上された1件を除き、いずれも献上した当時の製作ではなく、古陶磁が選定されている。
 実証的な中国古陶磁研究が始まる直前から草創期にかけて、中国や日本の要人から皇室に献上された中国古陶磁は、当時における古陶磁の評価や価値観を知るうえで参考価値がある。たとえば、清国からの献上品には、北宋時代末に宮中の御用品を焼いていたとされる汝窯、あるいは定窯白磁といった宋代の名窯の器と考えられていた作品が選ばれているが、今日の研究水準からするといずれも真正の作品ではなく、19世紀末から20世紀初頭にかけての古陶磁観、および鑑識眼の限界が窺われる。その他の中国の要人からの献上品のほとんどは清時代の官窯器であり、なかでも単色釉磁が比較的多い。満州国関係者からの献上品には、小品ながら優品が含まれ、注目される。